PEP
No. 2009-008

大学でのインターンシップを推進しよう

一橋大学 国際・公共政策大学院 公共経済プログラム  平田 暁

近年の経済状況の変化のなかで、社会が求める高等教育、すなわち、学生が大学教育等を通して身に付けていくべき能力は変化してきている。学生が社会で即戦力として通用するためには、本来の高等教育に期待される教養・専門知識の習得のみならずより実践的な能力や技術が求められるようになっている。岩脇千裕(2004)(注1) では、企業が求める人材について、「大学新卒者採用市場において望ましいとされる人物像は、育成の対象から自ら行動する主体へと変容した」と指摘している。

大学生を含む若者を対象とした人材育成の施策として、若年者の働く意欲を喚起し職業的自立を促進し若年失業者を減らすことを目的として取りまとめられた『若者自立・挑戦プラン』(2003)は、日本で初めての本格的な若者政策の取り組みと考えられ、「若者がチャンスに恵まれていないこと」「自らの可能性を高めそれを生かす場がないこと」は社会システムの不適合の問題と捉えられている。

若年者のキャリア教育や職業的自立の問題の検討は、日本においてはまだ日が浅いこともあってか、さらなる政策展開が必要とされており、とりわけ若い世代に対する教育環境が十分に整備されているとは言いがたい。このような状況を改善するために、産業界のニーズを踏まえた高度な教育環境の提供が求められている。近年の産業界が現場の即戦力として求める人材像やスキルは高度化しており人材の育成やその支援のために高等教育機関の果たすべき役割は大きいものと考えられる。

このような変化を踏まえ、日本の高等教育機関にも変容が求められている。近年、大学をはじめとする高等教育機関はキャリア教育という観点から、学生のインターンシップへの参加を支援し、企業もまた雇用戦略やあるいは社会貢献の観点からインターンシップへの協力に積極的になってきている。インターンシップとは、学生が在学中に自らの選好や将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと、と定義されており、社会に適合した人材を育成する施策として非常に重要であると考えられる(注2)

社会状況の変化により日本の企業では、人件費を抑えるためにも短期間で効率的に業務上の知識・ノウハウを吸収できる能力のある大学生への需要が高まっていると考えられる。

図表1は、高等学校から大学への進学率の推移を示したものであるが、大学への進学率が上昇傾向にあることから、若い世代の人材育成の対象として大学生に着目することはより重要となってこよう。特に、大学生の人材育成の一環として、インターンシップの推進・拡大は重要な検討課題の一つであると思われる。

図表1 高等学校から大学への進学率の推移(注3)


出所:文部科学省 生涯学習政策局調査企画課「学校基本調査」平成19年度

インターンシップに関する主要な先行研究である佐藤・堀・堀田(2006)では、大学のキャリア教育と企業で受け入れ学生を担当する社員教育の観点から、インターンシップによる人材育成推進の重要性を指摘している(注4)

図表2は、先行研究に基づき、インターンシップのメリット・デメリットについての要点を、学生・大学・企業の視点からまとめたものである。これらをもとに日本でのインターンシップについて考えてみると、学生・大学側の視点からはインターンシップのメリットは多く具体的であるが、企業にとってのメリットが曖昧なままとなっているのが現状であろう。企業にとってのメリットは、これまであまり具体的には語られてこなかった。企業がインターンシップから何かしらの便益を得なければ、企業がこの取り組みに参加する意義はなくなってしまう。

また、大学・学生から見た、キャリア教育としてのインターンシップが学生に影響を与えているかどうか、これまで具体的な分析が行われてこなかった。大学によるキャリア教育の一環としてのインターンシップのあり方を考察することは、大学でのキャリア教育のあり方を考察する上で重要となるのではないかと思われる。

以上のような問題意識に基づき、筆者は日本の大学でのインターンシップによる人材育成に関するアンケート調査を分析した。(注5)

図表2 インターンシップのメリット・デメリット‐学生・大学・企業の視点から‐


分析は大きく2つある。ひとつは、企業にとって望ましいインターンシップの在り方の検討、いまひとつは、学生にとって望ましいインターンシップの在り方の検討である。それぞれの分析結果を簡単に紹介したい(注6)

**********

まず、企業は様々な目的を持ってインターンシップを行っていると考えられるが、この目的を達成することが、企業にとってインターンシップを行うことのメリットになると考えられる。

そこで、企業が実施したインターンシップの目的タイプを、 (1) 人手確保型、 (2) 採用見極め型、(3) 自社PR型、(4) 職場活性型と4つに分類し、それぞれのタイプにとって、目的に対応した効果やメリットにつながる望ましいインターンシップのあり方を検討し、次のような結果が得られた。

  • 企業がインターンシップの目的を実現するという観点からは、人手確保型や採用見極め型では、受け入れ日数が長いことが、企業にとって目的を達成する要因となる。また、採用見極め型では、実習計画の作成は目的を達成するうえで負の影響を持つが、職場活性化型においては目的を達成する要因となる。同じく、採用見極め型では新規学卒採用者との関連がないことは負の影響を持つが、自社PR型では目的を達成する上で正の影響を持つ。

  • 企業がインターンシップのメリットを感じるという観点からは、人材確保型では、過去3年間に新卒採用があることが、学生の配置による職場全体の活性化を促す要因となるが、職場活性化型では逆に負の影響を持つ。また、人手確保型・自社PR型・職場活性化型では、学生の要望を把握することが、学生の配置による職場全体の活性化を促す要因となる。同じく人手確保型・自社PR型・職場活性化型では、過去3年間に新卒採用があることが、指導にあたる若手社員の成長を促す要因となる。

それぞれのタイプで共通した要因も見受けられたが、全体として、企業が効果的であると感じるインターンシップの手法・仕事タイプ・企業属性には、それぞれの目的によって違いが存在することが明らかとなった。

**********

次に、大学・学生の視点から、学生の今後のキャリアに影響を及ぼすインターンシップのあり方を検討した。学生の今後のキャリアに影響を及ぼす望ましいインターンシップの在り方について、次のような結果が得られた。

  • 「実習内容の説明があること」および「希望企業であること」は、学生のその後のキャリアに影響を及ぼす傾向がある。それぞれの効果・段階により、影響を及ぼしていると考えられる要因が多少異なっていることが見受けられる。

  • 中核業務型のインターンシップは、学生のその後のキャリアに影響を及ぼす傾向があり、アルバイト・パート型は学生のその後のキャリアに影響しないか逆効果となる傾向がある。

さらに、インターンシップに際しての大学の指導が学生に与える効果として、次のような結果が得られた。

  • 学生に仕事の責任感を感じさせるような指導としては、注意事項の説明が効果的である一方、レポートの指導や提出は負の影響を持つことが明らかになった。働くことによる責任感を知る段階においてレポートを学生に課すということは、責任を持って仕事をしているという意識を学校の課題をする意識によって薄めてしまう恐れがある。初期の段階には、大学の課題に関する指導よりは、仕事を行う上での社会的規範を確認することが妥当であると考えられる。

  • 学生が業種や職種について知ることが出来るようになる指導としては、実習成果の指導・提出が効果的であり、概要の説明は負の影響となる。また、自分の適性・興味が分かることにつながる指導としては、実習先の企業研究が効果的である。働くことの実践を習得することを目的とした、中盤の段階においては、大学の課題に関する指導や仕事をするインターンシップ企業の研究を行うことが、妥当であると考えられる。

  • 学生が大学の勉強にもっと力を入れようと思うことにつながる指導としては、実習成果の指導・提出が効果的であり、ビジネスマナー講習は負の影響となる。働くことによる学生の意識啓発を目的とした高度な段階においては、仕事を行う上での社会的規範を確認するような指導は逆効果となり、大学の課題に関する指導を行うことが妥当であると考えられる。

このように、学生の今後のキャリアに影響を及ぼすうえで望ましいインターンシップの手法・大学での指導は、影響の効果・段階によって違いが存在することが明らかになった。

**********

以上の結果をもとに、本分析において得られた知見をまとめる。まず企業にとってメリットを得られるインターンシップの望ましいあり方については、企業の目的によって違いが存在するということが明らかとなった。次に、学生のキャリア形成に影響を及ぼす効果的なインターンシップのあり方については、インターンシップの手法や大学での指導が、今後のキャリアへの影響の効果・段階によって効果的な手法が異なることが分かり、多様な学生層の就業意識啓発の効果・段階に対応した具体的なインターンシップのあり方が求められる、という知見が得られた。

これらの企業、学生・大学からの知見を踏まえると、社会的に望ましいインターンシップのあり方についての提案として、まず、企業の目的別に効果的なインターンシップを提案できる仕組みを整えることが重要なものになると考えられる。そのために必要と考えられる対策としては、大学と企業の情報交換の仕組みを創ることが挙げられる。ここで大学は企業にインターンシップのメリットを説明することが重要となる。インターンシップを請け負う企業の負担を少しでも減らすために大学は企業との情報パイプ役を積極的に担い、企業の目的に応じて効果的なインターンシップを企業側に提案していくことが必要と考えられる。企業は大学の提案等を参考に、それぞれの目的に沿った望ましいインターンシップを実施し情報提供をしていくことが必要となる。インターンシップのメリットは見えづらいものではあるが、目的に応じたインターンシップのあり方や活用方法を理解していくことで、企業にとっても学生・大学にとっても望ましいものが実現すると考えられる。

また、学生の将来のキャリア観・仕事観に沿ったインターンシップを提案できる仕組みを創り出すことも重要となる。そのためには。大学が多様な形態のインターンシップが混在している状況を整理し具体的なインターンシップのあり方を提示することが重要となる。大学はこのような提示によって、学生の目的とのミスマッチを解消し学生の目的意識をより明確にすることができる。そして、各企業のインターンシップの内容・情報を細かく学生に提供していくことも必要となる。さらに、インターンシップに関して大学が指導の機会を提供することは、学生のその後のキャリアに影響を及ぼすため、学生の目的明確化のための事前・事後の指導教育を、学生に応じて的確に進めていくことが望まれる。

学生・大学にとって望ましいインターンシップが、企業にとって望ましいものとは一致しない可能性は充分に考えられるが、この問題を解消するためには、大学は企業の負担を軽減する努力を払う必要があろう。このような提案の流れを、図表3にまとめておく。

図表3 社会的に望ましいインターンシップのあり方について


大学のインターンシップによる人材育成の課題について企業と学生・大学の視点からの提案を行ったが、インターンシップ制度については、行政の施策や支援の問題に関してもさらなる検討が必要と考えられる。

例えば、行政は企業がインターンシップを行いやすいような制度を設計し提示を行っていくことで、大学では学生が職業能力を培い職業を自己選択できるようなキャリア教育のできる環境を整えていくことが望まれる。本稿における提案が、企業・大学だけでなく行政における人材育成への更なる取り組みや政策的支援に結びついていくことを期待したい。


(注1)
岩脇千裕(2004)『大学新卒者採用における「望ましい人材」像の研究―著名企業による言説の二時点比較をとおして―」日本教育社会学会編『教育社会学研究』第 74 号, p.309-327.
(注2)
詳しくは、文部科学省(平成17年度) 「大学等におけるインターンシップ実施状況調査」【結果概要】を参照。
(注3)
大学(学部)への進学率(過年度高卒者等を含む)は大学学部(過年度高卒者等を含む)を3年前の中学校卒業者及び中等教育学校前期課程修了者数で除した比率である。
(注4)
詳しくは、佐藤博樹、堀有喜衣、堀田聰子 (2006)『人材育成としてのインターンシップ‐キャリア教育と社員教育のために‐』 労働新聞社 を参照。
(注5)
厚生労働省(2004)「インターンシップの実態に関するアンケート調査」 本研究の二次分析にあたり、東京大学社会科学研究所附属日本社会研究情報センターSSJデータアーカイブから「インターンシップの実態に関するアンケート」(寄託者:佐藤博樹 様)の個票データの提供を受けた。貴重なデータの提供に感謝申し上げたい。 【概要
(注6)
詳しい結果については Consulting Report を参照されたい。