PEP
No. 2010-001

好ましい企業の社会貢献活動とは
〜Cause Related Marketing の視点から〜

一橋大学 国際・公共政策大学院 公共経済プログラム 工藤 朋子


 企業の社会貢献活動と聞いてどのようなことを思い浮かべるだろうか。多くの場合、環境保全活動の一環としての植林活動や災害時の義援金など、自分にとっては距離があることと感じる人が多いのではないだろうか。しかし、近年、Cause Related Marketing(以下「CRM」)といって、企業とNGO/NPOの連携により消費者も一役買うかたちで社会的課題の解決に取り組むような手法が多くみられるようになった。

 CRMとは「社会的問題解決のために企業が持っているマーケティングの力を生かし、売り上げやブランドイメージアップも同時に目指す手法(注1)」であり、中でも企業が商品の売上げの一部、もしくは価格の一部を連携先の団体に寄付するという連携の形が多いとされる。欧米では1980年代後半から多く活用されている手法であるが、日本でもここ数年間で急速に増加しつつある。

 例えば、ダノンウォーターズオブジャパンはユニセフと連携し「1L for 10L」プログラムを2007年より毎年実施している。このプログラムは、ミネラルウォーター「ボルヴィック」の売上金の一部を、出荷量1リットルあたり10リットルの衛生的な水を供給するために使って、アフリカ・マリ共和国における水問題解決を目指すものである。2009年度のプログラムにより、UNICEFへ約3800万円の寄付が実現し、今後10年間を通じてマリ共和国へ6億3400万リットル以上の水の供給が行われると報告されている

 この事例にみられるように、寄付付き商品を購入することを通じて、消費者は支援したいと思う社会的課題への寄付を行い、企業の社会貢献活動に参加することが出来る。CRMはこのようにそれまで距離感のあった企業の社会貢献活動に消費者も参加することを可能にする。

 日本においては、CRMキャンペーンの対象となる商品としては、コモディティ化(注2)しやすい日用品や食料品が多く、支援対象先も「女性」や「子ども」など商品の購入者層(主に主婦)が共感しやすい内容になっている。連携目的に関しては、企業側からは「商品の差別化として」や「社会貢献の一環として」といった意見が聞かれ、NGO/NPO側からは「(団体の)知名度を上げる方法」「寄付を集める(ファンドレイジング)手法」を連携の主な理由としている。

 ここまでの議論からは、CRMは企業・NGO/NPO・消費者、それぞれにとって利益のある社会貢献活動の手法のように映るであろう。果たしてそうであろうか。以下では、CRMのもつ特徴をもう少し詳しくみながら、その問いに答えてみたい。

表1:メリット・デメリット


 表1からわかるように、CRMは企業・NGO/NPOに与える影響は一面的でなく、相反する効果を持つと考えられる。例えばCRMの企業に与える効果として、消費者の好感度を向上させる効果を持つ一方で、その実行方法によってはブランドに対する懐疑心を生んでしまうという逆の効果を持つ。CRMを行う企業の労働者に与える効果として、優秀な人材を採用でき、離職率の低下が見られる一方で、煩雑な事務作業を増やし、本来の業務以外に人材や労働時間を割かねばならないロスが生じる可能性もはらんでいる。NGO/NPOにとってみればCRMのメリットとして寄付金の増加が挙げられるというメリットの一方で、企業がCRM以外の寄付(伝統的寄付)額を減少させるため、CRMによる寄付の増加分を相殺してしまう可能性もある。このように、CRMの企業、NGO/NPOへの効果は、その方法や対象によって相反する部分があり、包括的にみたとき、当該CRMが各アクター(企業、NGO/NPO)に与える影響は個別のケースで異なってくると予想される。

 以上から、CRMは果たして企業の社会貢献活動として好ましい手法なのかの疑問が生じる。この点について具体的に検討し、望ましい企業の社会貢献活動のあり方について考察するため、消費者が仮想のCRMや企業の社会的貢献活動に対し、どのように感じるかを個人に対してアンケート調査を行った(注3)。その中で興味深いと思われる結果を紹介したい。

 まず、消費者はどのような社会貢献活動を望ましいと感じているのだろうか。以下の選択肢から選んでもらった。

  • A社:貧困問題に取り組むNGOに売上の10%を寄付する(CRM)。
  • B社:社員のNGOでのボランティア活動を支援する(人材派遣)。
  • C社:NGOと技術協力を行い、野菜・果物の栽培技術の普及、就業機会の創出を目指す(技術・ノウハウ提供)。
  • D社:現地に活動拠点を持つNGOと共同でガイドラインを作成し、それに則って公正な価格で開発途上国から商品を購入する(フェアトレード)。
  • E社:オリジナル栄養補助食品を、NGOを通じて現地の貧困世帯に配布し、慢性的な栄養失調を解消する(物資支給)。
図1:好ましい社会貢献活動(全体)


 図1の結果に示されるように、CRM(A社)は他の社会貢献活動と比べて高く評価されていないことが明らかになった。最も高く評価されている企業の社会貢献活動は「C社:NGOと技術協力を行い、野菜・果物の栽培技術の普及、就業機会の創出を目指す」ことであり、社会的課題の根本的解決を目指す中長期的な視点からの支援内容となっている。

 この結果について、更に、回答者を企業の社会貢献活動に対する意識度の高さによって回答者を二つのグループに分けて好ましい企業の社会貢献活動について検証を行った(図2)。企業の社会貢献活動に対する意識度が低いグループの特徴は、CRM関連商品の購入経験がない人が比較的多いが、企業の社会貢献活動のあり方としてはCRMを好むことが明らかにされた。したがって、CRMのような社会貢献活動は、意識度が低い消費者の社会貢献活動への参加を促すための効果的な手法となり得る。

図2:好ましい社会貢献活動(意識度別)


 CRMのメリットの一つとしてキャンペーンを行うことを通じて消費者に対し幅広く社会的課題を伝えることが可能であることが挙げられるが、CRMは意識度の低いグループが社会的課題を知る一つのきっかけとしても有効であることが分かる。また、企業の視点からも、CRM関連商品の新たな販売(購入経験のない消費者取り込む場合)を企画している場合は、企業の社会貢献活動に対する意識度の低いグループを対象とすると効果的である可能性が示唆された。

 一方、企業の社会貢献活動に対する意識度の高いグループの特徴はCRM関連商品の購入経験がある人が多いが、企業の好ましい社会貢献活動の在り方として考えているのは、技術・ノウハウ提供やフェアトレードのような中長期視点から社会的課題の根本的解決を目指す支援である。また、このグループは自主的にCRMに関する情報を入手する傾向にあることも特徴として挙げられるため、企業としては、過度なPRを行ったり、短期的な結果を求めたりする必要はなく、活動自体に主軸を置いて社会的課題の根本的解決を目指していくことが、そういった消費者からの信頼を得るために重要なことであろう。

 冒頭にも述べたが、CRMは企業の社会貢献活動をアピールする上では適切な手法であり、消費者も企業の社会貢献活動に参加できるといったメリットがある。しかし、アンケート調査を通じて、消費者が最も好ましいと感じる手法は中長期視点からの社会的課題の解決であることから、CRMは企業の社会貢献活動として必ずしも最適な手法ではないことも確かである。企業とNGO/NPOが連携して実現する社会貢献活動として消費者が最も好感をもっているのは、CRMというよりも、社会的観点から疑問視されるような点(児童労働、不当に低い賃金、劣悪な労働環境、環境汚染、など)をNPO/NGOの専門性を利用して改善していくことなど、社会的課題の根本的課題を目指す支援活動であった。

 しかし、日本ではそういった連携の形は現段階ではあまり見られず、NPO/NGOは企業から受動的に寄付を受ける立場として見られることが多い。特に2003年のCSR元年以降、企業の社会貢献活動が年々注目されている中、多くの企業がそれぞれの社会貢献活動を社会にアピールする必要性に迫られており、その結果消費者にアピールしやすいCRMを選んでいる可能性がある。また、CRMキャンペーンを通じてプラスの部分のみが伝えられることにより、そもそもなぜそのような社会的課題が生まれたのか、その原因を究明していく機会が減ってしまうことも懸念される。

 CRMには社会的課題の認知度を高める上では一定の効果はあると考えられるが、現状ではまだそのメリットが最大限に生かされているとは言えない。今後、ますます深刻化する社会的課題に対応するためには、社会貢献活動をアピールするだけではなく、いかに問題を根底から解決していくか考えていく必要があると考える。NGO/NPO団体の活動資金の継続性を考えるとCRM等を通じた金銭的寄付ももちろん重要ではあるが、今後はより企業の本業に近い部分での連携を強化していくべきだろう。日々の購買活動という目に見えた形によって企業の活動を支持することができる我々は、ただ単に安いから買う、といった行為から脱却し、企業活動やそれが社会に与えるインパクトに対してもより敏感になっていく必要があるのではないだろうか。

 
(注1)
谷本寛治(2006)『CSR 企業と会社を考える』NTT出版
(注2)
コモディティ化とは、競争が激しい商品の間でその特性(機能、品質、ブランド力など)が失われてしまうことで商品の差別化が困難になり、消費者にとってはどこのメーカーの商品を購入しても大差のない状況のことである。
(注3)
今回実施したアンケートは、無料アンケート作成サイト「アンケートツクレール」を使用した。アンケートは全部で19問あり、その内3問はフリーアンサー形式となっている。対象は、348人の一般消費者となっており、回答者の80%は20代から30代で構成され、男性52%、女性48%とほぼ1:1の割合になっている。