理念

 今日、国際社会・国家・地域・企業・個人等、あらゆる場面において競争が激化するなかで、職業に必要とされる専門性が増大しています。 また、雇用の流動化のなかで学部卒社員の社内教育によってきたキャリア形成も変容してきました。 そうしたなか、社会科学の大学院教育においては、社会、実務とのフィードバックの上に専門職業人を養成することも求められるようになりました。 専門大学院制度の創設は、このような要請を反映したものです。

そして、専門性、実践性への要求の高まりは、国際組織、国や自治体、NGO/NPO 等における国際政策および公共政策の立案と執行等の場面においても生じています。 一国、一地域の視点のみから見た政策は通用しなくなってきており、あらためて公共性とはなにかが問われる時代において、法律学、経済学や国際関係等の広い視点と高度な専門的分析力が、国際・公共政策の担い手にとって必要となってきました。 さらに、能力主義の流れのなかで、組織の中での個人の力量が真に問われる時代となってきています。

本学では、このような環境変化のなか、法学研究科・経済学研究科が連携して専門職大学院である国際・公共政策大学院(以下、政策大学院という)を設置し、公共政策の課題を発見して、自らその解決を図ることのできる人材の育成を目指します。 その基本理念は次の4つです。

基本理念 1 先端研究の基礎に立つ高度専門教育

 公共政策研究に関して、一橋大学は、全国的に見ても優れた研究体制を構築し、多数の業績をあげてきました。経済分析の分野では、「現代経済システムの規範的評価と社会的選択」が21世紀 COE プログラムに採択され、経済制度や政策研究の拠点形成が進められています。また、平成12年度から始まった「アジア公共政策プログラム」は、これまで主にアジア諸国の公共政策の現場から留学生を募り、彼らの政策担当能力向上のための専門教育を行ってきており、着実に成果を積み重ねてきています。

 公共法政、グローバル・ガバナンスの分野については、統治原理、行政改革、環境・科学技術政策、企業税制等の研究が進められ、また、国際社会の理論・歴史・法制度に関する研究の拠点大学としての地位を占めるだけでなく、国際関係についての政策提言等も積極的に行うなど、注目すべき成果をあげてきています。また、欧州委員会の公募と資金援助によってアジアにはじめて開設されたEUインスティチュート(EUIJ)の幹事校としての特性を活かし、EU研究や実務の最新の成果が議論されています。

 上記の基礎の上に構築される、国際・公共政策大学院の第1のねらいは、国際社会や国内社会における公共政策研究の最新の成果を実務へと架橋し、また実務での問題をいち早く教育・研究に反映させることです。具体的には、統治システム改革、マクロ財政金融政策、税制、社会保障、地方財政、環境・科学技術政策、国連と地域紛争・復興支援、日本のODA外交政策、アジア・太平洋地域における経済協力等の課題について、実務家との連携を重視し、高度な専門職教育を行うことを目的とします。

基本理念 2 横断的分析による複合的視点の育成

 公共政策の立案執行の過程は多面的です。科学的分析を踏まえて立案された政策は、複雑な政治過程を経て条約・法律・条令等へと制度化され執行されます。したがって、国際組織、国・自治体、NGO/NGO 等における公共政策の担い手については、法律学・国際関係、経済学に関する一定の知識を有しながら、特定分野に高度な専門的知識を有する人材の輩出が求められることになります。そして、このような人材を送り出すことは、「社会科学の総合」を理念として掲げ、幅広い社会科学の素養の上に高度な専門知識を有する職業人を送り出してきた一橋大学の理念・伝統に一致するものです。

 以上の点に照らし、本学の国際・公共政策大学院の第2の基本理念は、政策研究における法律学、国際関係と経済学との横断性に力点をおくことです。この理念を実現するため、相互に科目を提供するのみならず、経済系学部卒の院生を国際・行政コースに受け入れ、法律学および国際関係の学部卒の院生を公共経済コースに受け入れる道を開きます。さらに、1つの政策課題を法律学、国際関係と経済学の複数の視点から講義する科目を設けます。

基本理念 3 政策分析における多角性と実践性の重視

 国際・公共政策大学院の第3の基本理念は、政策分析における多角性と実践性の徹底を図ることです。政策の判断主体・担い手の多様化を踏まえ、「官と民」両方の視点から常に政策分析にあたることを重視します。そのために、国の機関のみならず、国際組織や地方自治体、民間企業、経済団体、シンクタンク、NGO/NPO等の実務家や調査担当者などと密接な連携を築き、政策の効果を現場から評価する力を学生に身につけさせます。

 さらに、国際社会の構造や外交交渉、国内法制度や立法過程、国内外の経済の実態および政策効果について、実践的分析能力の向上に力点を置きます。そのため、学生自身が政策効果に関するプロジェクトを持ち、教員の指導のもとに政策の実践感覚を身につけさせます。また、すでに実務にあたっている社会人の再教育にも重点をおき、学生たちの間から新しい見方が生まれる刺激的な環境を提供していきます。

基本理念 4 アジア・太平洋における拠点の構築と世界への発信力の養成

 国際・公共政策大学院の第4の基本理念は、海外の政策研究機関と連携しつつ、研究と教育の両面において個々の国、地域の特質を生かしながら国際化を推進することです。とくに、これまで国際企業戦略科修士コースとして開設されてきた「アジア公共政策プログラム」および法学研究科における「アジア太平洋国際関係プログラム」を国際・公共政策大学院に合体させ、アジア・太平洋における国際・公共政策の研究・教育の拠点形成を目指す。アジア・太平洋諸国を中心とした留学生を積極的に受け入れ、政策形成のリーダーとなる人材育成を行っていきます。そのために、留学生には英語による教育を行う体制を整えます。また、日本人の学生にはグローバルな視座から政策を考える習慣を身につけ、世界に発信する能力を養成していきます。

 この4つの基本理念に基づいて、本大学院は次のような資質を持った人材の育成を行います。第1に国際・公共政策の専門家として、法律学、国際関係、経済学のいずれかの分析方法を習得していることであり、第2に問題の複雑さに対応できるよう、隣接専門分野の分析方法論も理解していることです。第3に国内外の政府活動あるいは地域社会の政策現場で実践的政策分析と提案を行い、優れた説得力により、提案を政策として実行できる能力を持つこと。そして第4に、優れた政策を世界に向けて発信できることです。

 卒業後の進路は、日本における中央や地方の公務員、および国連、世界銀行、IMFなどの国際公務員のほか、本大学院の特徴として、経済団体、シンクタンクや NGO/NPO、そして企業など民間部門も重要視します。また、留学生の進路としては本国の政府機関などがあります。卒業生が幅広い職種から政策形成に貢献する機会を作り出していきたいと考えています。