国際・公共政策大学院の20年の歩み

 国際・公共政策大学院(IPP)は、2005年4月、法学研究科および経済学研究科の教員が共同で運営する専門職大学院として創設されました。
 日本では2003年に専門職大学院制度が施行され、公共政策系の専門職大学院として8つの大学院が設立されましたが、現在残っているのは、北海道大学東北大学東京大学明治大学京都大学、そして一橋大学の6つです。

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 IPP は、国際政策および公共政策に関する専門職教育を提供する修士課程のみの大学院で、4つのプログラムを持ち、入学定員は55名です。
 法学研究科の教員が担当する国際・行政コースには、「公共法政プログラム」と「グローバル・ガバナンス・プログラム」、経済学研究科の教員が担当する公共経済コースには、「公共経済プログラム」と「アジア公共政策プログラム」があります。
 アジア公共政策プログラムは、英語で教育を行うプログラムとして、2000年に国際企業戦略研究科(現、経営管理研究科国際企業戦略専攻)の中に設立されました。アジア諸国の若手官僚を主な対象として経済政策に関する教育を行ってきましたが、2005年の国際・公共政策大学院の創設に際して、公共経済コースのプログラムの一つとして編入されました。また、2008年には、国際関係に関する教育を英語で行う外交政策サブプログラムが、グローバル・ガバナンス・プログラムの中に創設されました(現在のIPPの詳細は、大学院のパンフレットをご覧下さい)。
  

国際・公共政策大学院の設立

 
 IPP の設立趣旨は、設置申請書に次のように記されています。

 今日、国際性・公共性の強い政策分野において、高度の専門知識や思考力を備えた実践的人材がよりいっそう必要とされており、かかる人材の育成は重要な教育的責務となっている。本大学院は、この責務を果たすことを目的とする。
 そのために、①先端研究に基づく高度専門職教育、②横断的分析による複合的視点の育成、③政策分析における多角性と実践性の重視、④アジア・太平洋における拠点の構築と世界への発信力の養成、という四つの基本理念を掲げる。

 
 これら4つの基本理念は、専門職大学院に期待される役割から考えると自然なものです。しかし、②や③の基本理念の実現は、学術的な研究や教育を中心に行ってきた「研究者教員」にとっては経験したことがない大きな挑戦でした。
 専門職大学院では、実務経験を積んだ「実務家教員」を一定数採用することとなっているのですが、採用できる実務家教員の数は限られます。スキルの向上や更新を目指す社会人経験者を含む学生に、どのような教育を行えば、高く評価される大学院になれるのか。実務経験のない研究者教員も、深く考え抜く必要がある課題・挑戦でした。
 設立に関わる2名の教職員が、アメリカの2つの公共政策大学院に視察に行き、専門職大学院の運営に関する知見を得る機会を得ました。そこでは、複合的視点や実践力の育成のために、学生が教室で学んだことを実際に応用してみる機会を在学中に作り、教員との対話を通じて習得させる教育が行われていました。
 視察は、アメリカの大学院における専門職教育を、経営の側から理解する貴重な機会にもなりました。アメリカにおける大学院教育への需要や社会的認知、大学院の資金力、実務経験を積んだ博士号取得者の層の厚さなど、視察を通じて確認できた日米差は、20年を経た現在もなお大きいと感じます。
 

国際・公共政策大学院の教育

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 国際・公共政策大学院の専任教員は、法学研究科または経済学研究科に所属しており、学術研究と実践的な専門職教育の両方が求められます。教員は国際性を高めることにも取り組み、現在、留学生が在学生に占める割合は約4割で、国籍も20カ国近くに及びます。また、修了年限1年の社会人課程もあり、社会人学生の割合が高いという特徴もあります。
 学生の多様性の高さは、国際・公共政策大学院の際立つ特色の一つですが、英語でのコミュニケーションや社会人学生の要望に応えるために教職員に求められる能力や負担は、小さくありません。しかし、教職員一人ひとりの献身的な取り組みによって、修了生の高い満足度と評価を維持してきました。
 国内外で直面する数多くの社会的課題に適切に対応するためには、分析を通じて課題の本質を明らかにし、その理解に基づいて創造的な解決策を提示する高度な課題発見・課題解決能力が必要となります。そのような能力を修得した人材を数多く輩出することは、日本の高等教育機関が強化すべき取り組みです。

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 そのような人材育成のために、IPP が重視してきたのは、(1) 社会科学の基礎を学ぶことを通じて人類社会に働く様々な力への理解を深めること、そして、(2) その理解に基づいて現実の諸課題の本質を理解し、改善・解決する力を身につけることでした(IPPでの教育の概念図(左図)を参照)。
 IPP では、専門職大学院として、インターンシップやコンサルティング・プロジェクトのように、教室での学びを実践に応用する機会を在学中に提供し、学外の方と連携しながら、複合的視点や実践力の育成に努めてきました。
 また、英語で教育を行う「アジア公共経済プログラム」と「外交政策サブプログラム」という2つのプログラムを通じて、海外の多様な国々から優秀な学生を集めて、国際的な質の高い学びの環境を維持することにも取り組んできました。約4割という留学生比率の高さの背後には、これら2つの英語プログラムを丁寧に運営してきた教職員の地道な取り組みがあります。
 アジア公共経済プログラムでは、国際機関からの奨学金も確保して、アジア諸国の若手官僚を主な対象とする公共政策教育を提供してきました。また、教員はアジア諸国を訪問し、優秀な候補者を確保するためのアウトリーチ活動を行い、選抜を行ってきました。卒業後に自国に戻った修了生の多くは、アジア諸国の公共部門で活躍しています。大臣になる修了生も出てきています。
 グローバル・ガバナンス・プログラムでも、英語のみで学位を取得できる外交政策サブプログラムを2008年に立ち上げ、優秀な留学生を継続的に受け入れ、留学生の出身国の多様性を高めることに貢献しています。2018年には、欧州の大学院と協定を結び、2年間の在学中に2つの大学院から学位を取得するダブルディグリー・プログラムも始めました。 
 2023年、国際・公共政策大学院は、大学基準協会による3回目の認証評価を受けました。そして、以下の6点を特色・長所として認定されました
 

  1. 「アジア公共政策プログラム」「外交政策サブプログラム」におけるグローバルな人材育成及び行き届いた集団・個別指導(
  2. 理論と実践を架橋する「コンサルティング・プロジェクト」の充実(
  3. 学生の声を教育改善に生かす「意見交換会」の定期的な実施(
  4. 国際的な外部機関との継続的な関係構築(
  5. 一人ひとりの学生を大切にする、きめ細やかで手厚い指導体制(
  6. 人的サポートの充実による、留学生が安心して学べる環境の整備(

 

国際・公共政策大学院のこれから

 
 国際・公共政策大学院の授業の多くが国立キャンパスで開講されていますが、現在でも多くの授業が千代田キャンパスで行われています。国際・公共政策大学院の4つのプログラムでは、最新の政策課題に関する実務的な知見を高めるために、都心にある国内外の政府機関や研究機関の職員による授業を、千代田キャンパスで数多く開講しています。外部講師の負担軽減を図り、継続的な協力を受けるためにも、千代田キャンパスの有効活用は質の高い実践的教育を維持するための生命線となります。
 国際・公共政策大学院は、今後とも、国立キャンパスと千代田キャンパスという2つのキャンパスを上手に活用しながら、大学院が掲げる4つの基本理念の実現を目指し、国内外の社会課題を解決できる国際性豊かな人材を世界に送り出していくでしょう。