卒業生の近況

NO.09:坂本貴志さん(公共経済,2011年修了)

 私は本大学院の公共経済コースを2011年に卒業しました。現在は、厚生労働省保険局に所属し、医療保険制度の企画立案をしています。大学院(他大学院も含め)への進学を検討されている方々に向けて、大学院で経済学を学ぶこと、一橋大学国際・公共政策大学院で学ぶことについてお話します。

 まず、私が、厚労省に入省して最も驚いたのは、国会や部会はおろか省内の議論でも経済学の観点からの政策立案が行われていない事です。たとえば、現在、受診時定額負担という政策が提案されていますが、省内の議論では、病気の人から費用を負担させるのは公平性に欠ける一方で、厳しい財政状況からある程度費用を負担してもらわないとならないという議論が主です。効率性と公平性を分離して考える厚生経済学の基本定理や、保険制度において価格弾力性の高い財には高い負担をかける、といった経済学の原理から医療費を適正化させるといった視点が政策に反映されていません。私は、もちろんそれは物事の一側面を捉えているだけかもしれませんが、学問の視点を持って政策を捉える人が、政策決定の第一線にいる中央省庁ですら極めて不足していると思います。ここに、大学院、特に公共政策大学院が学問と政策の橋渡しができる人材を育てる必要性を強く感じます。

 2点目に、一橋の国際・公共政政策大学院(以下IPP)で学ぶことについて。IPPの最も大きな特徴は、学生数が少ないことです。IPPの長所は、一人の教授が一人の学生に対し極めて多くの時間を割き専門的な指導をする点だと思います。特に、公共経済コースでは、計量経済学に力を入れており、私も、計量経済学の理論や応用方法を深く勉強することができました。修士論文やコンサルティングプロジェクト(公共経済コースが実施している、産学連携のプロジェクト)では、医薬品の費用便益分析をテーマに、E-views、stata、matlabを用いて経済分析を行い、その過程で先生方や製薬企業の方々から多大なご協力をいただきました。

 公共経済コースの長所は、一つの政策を経済学の観点から極めて専門的に学ぶことができる点だと思います。一方、IPPでは講義の種類が少なく、そこは他大学と比べて限界があるとも感じました。他大学の公共政策大学院ではゼネラルに政策について学ぶことができる一方で、IPPでは一つの政策分野について深く学ぶことができるという特色があると思います。現状、IPPは経済学研究科と他の公共政策大学院の真ん中にいるような大学院だと思います。公共政策大学院については、情報が少なく、不安に思う方が多いかと思いますが、少しでも多くの方に一橋大学国際・公共政策大学院に興味を持っていただければと思います。

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